投資家は意外と考えてない?!

世界のプロ投資家は意外と何も考えていない

【これまでの連載のあらすじ】
僕たちが正しい選択を行うためには、見かけの価格に騙されず、その対象の現在価値を知らなければならない。
現在価値を知るには、将来のキャッシュフローを割り戻すための割引率(金利)を見積もる必要がある。金利とはリスクへの見返り(リスクプレミアム)なので、まずは何より、リスクの量を見極めることが、価値判断には必要だった。
一方、リスクとは結果(データ)のばらつきの大きさである。ばらつきの度合いは、統計学的には標準偏差として表現される。標準偏差がわかると、だいたい3分の2の結果が収まるような範囲を割り出すことができる。

もちろん、明日の株価が上がるか下がるかは、神様にしかわからない。

しかし、「株価がだいたいどれくらいの範囲に収まりそうか」は、過去のデータをもとに割り出すことができるのだ。

僕は以前、JPモルガンやゴールドマン・サックスといった世界的に有名とされる金融機関にいたことがある。

世の中の人たちは、きっと「とんでもなく『頭のいい人たち』がとんでもなく高度な株価分析をしているに違いない」と考えていることだろう。

ただ、実際のところ言えば、分析がいくら高度であるにしても、彼らも内心は「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と思っているはずだ。というのも、どんな金融機関や機関投資家も、リスクの管理には標準偏差(=株価はランダムウォークすることが前提)を使っているからだ。

標準偏差が表すばらつきは、データ数が多くなるほど誤差も小さくなるが、実務の世界ではデータが十分あるという前提に立ち、「68・27%の確率でこの範囲に収まる」と決め打ちして運用しているケースがほとんどなのである。

ランダムウォーク理論を前提としているファイナンスの世界では、株価だけでなく為替やオイル価格など、あらゆる相場にこの考え方が有効だとされている。実際の応用をイメージしていただくために、またモデルケースを考えてみよう。

X社の株価は現在100円である。この市場では1日に1円しか価格が変動しないとしよう。つまり、1円上がるか1円下がるかのどちらかしかないという前提だ。株価が10日連続で上がれば110円になるし、10日間下がり続ければ90円になる。もちろん、上がったり下がったりを繰り返した結果、10日後に100円近辺にいる可能性も十分ある。

まず1日が経過したとしよう。1円を得るか、1円を失うか、可能性は五分五分だ。

では2日目が終わった段階ではどうなるだろうか。2日とも上がってプラス2円となる可能性もあるし、2日とも下がるかもしれない。また、上昇と下落が1日ずつ起こり、損得は0という状態も考えられる。さらに、同様に3日後の可能性も考えてみよう。

ここで重要なのは、日数を重ねるほどキャッシュのばらつきが大きくなるということだ。50日後には株価が50円(50日連続下落)になっているかもしれないし、150円(50日連続上昇)になっているかもしれない。当然、時間が経てば経つほど、不確実性は高まっていくように思える。

下の図を見ればわかるとおり、この取引における標準偏差は「経過日数の平方根」になっている。

10日後の標準偏差は3.16円(10の平方根)、50日後は7.07円(50の平方根)である。これは端的に言えば、株式を長期間にわたって保有すればするほど、収益面でのリスクは増大するということだ。